これからのネットワーク、ヤマハルーターの未来

ブロードバンドの爆発的普及により、企業ネットワークのブロードバンド化を推進してきたヤマハルーター。慶応義塾大学の村井純教授に、これからますます変化するネットワークの未来像とヤマハへの期待を語ってもらった。

中小企業、SOHO向けのルーター市場を牽引

村井純教授とヤマハの関係は、インターネット黎明期にさかのぼる。当時、村井教授は大学と大学を専用回線で結び、JUNETのカバーエリアを広げることに躍起になっていた。浜松エリアの開通を強力にサポートしたのがヤマハだった。

「1995年にダイヤルアップルーター『RT100i』が発売された時には、海外に持って行って自慢しました。小規模多拠点の店舗やSOHOでの使用に耐えられる“本物”のルーターのプロダクトはまだ世界のどこにもなかったのです」と、村井教授は言う。

「RT100i」はヤマハが初めて投入するルーター製品ということで技術的にしっかりしたものだったが、製品サポートも従来とは一線を画していた。「とにかくハードウエアに対するメンテナンスの粘り強さが印象的でした。エンジニアの働きがすぐにファームウエアのアップデートとして出てくる。こんな概念はそもそも、それまで存在しなかったと思います」。

ファームウエアのアップデートはインターネット上に無料で公開され、誰でもダウンロードすることができた。「それだけでなく、インターネットを有効利用することに意欲的でしたね。オンラインマニュアルもそう。古い製品のサポートもそう。コンセプトが素晴らしい。
みんなヤマハが始めて、ほかの企業が真似をした。先駆者といえると思います」。

慶応義塾大学  環境情報学部  教授 WIDEプロジェクト  代表 村井 純氏

慶応義塾大学 環境情報学部 教授WIDEプロジェクト 代表 村井 純氏

1955年、東京生まれ。
84年、慶応義塾大学数理工学研究科博士課程を修了。同年、日本の大学間を結んだ通信ネットワーク「JUNET」を開始。以後もWIDEプロジェクトを通じ、日本のインターネットの基盤を築く。

次世代プロトコルにも産学連携で素早く対応

インターネットは瞬く間に地球を覆った。接続方法もダイヤルアップから常時接続へ、ブロードバンドへと次々と革新を重ねている。

インターネットを支えるルーターの技術も当然進化が激しい。これからのルーターに求められる機能として、村井教授は、VoIPVPNIPv6の三点を挙げる。

「VoIPはIP電話の基本となる技術です。日本では、一定の性能を出せる機器には050の市外局番を割り当てると定めています。ルーターの技術への要求も非常に高くなってくる技術ですね」
VPN(Virtual Private Network)もヤマハが企業用ルーターとして力を入れてきた技術分野だ。

「今や、日本という国はインターネットのインフラが世界一安い。ビジネス上も、インターネットという資源をどう有効活用するか、ということが重要になってくる。最終的には日本の社会の経済活動の優位性にもつながってきますね」

管理できるアドレス空間の増大など、さまざまな改良を加えた次世代のインターネットプロトコル「IPv6」は日本発の技術だ。村井教授は「いずれ、あらゆるものがインターネットにつながる。そのためにはグランドデザインが必要」と早くから見通し、IPv6の準備を進めてきた。その研究を一緒に行ってきたのがヤマハルーターの開発陣だ。

「IPv6とは選挙のようなもの」と、村井教授はそのメリットを説明する。選挙においては投票者一人ひとりの素性は明確だが、投票に際しては匿名性の確保が必要となる。このように相反した性質、要求をうまく処理するための仕組みがIPv6だ。

IPv6は機密、プライバシー、情報への権限などをきちんと守りつつ、ネットワークを効率よく管理できる。今後、ビジネスや国際社会の中で、ますますその必要性が高まっていくことは間違いない。

ヤマハのルーターに関しては、「私たちはPC上で研究開発するわけですが、その成果を実際のプロダクトに反映するのがとにかく早い」と言う。ヤマハは、これからインターネットの中核技術となるIPv6の開発の、最先端の実行部隊なのだ。

1月21日、大手町サンケイプラザでヤマハルーター10周年記念講演
「通信ネットワーク、これまでの10年 これからの10年」が開催された

これからの通信ネットワークの未来を語る村井純氏

これからの通信ネットワークの未来を語る村井純氏

村井教授はヤマハルーター10周年を祝った後、通信のここ20年の歴史を語り始めた。村井教授がJUNETを開始した1984年にはまだパソコン通信が主流であり、メールの基盤を整える期間だった。90年代に入り、大学を中心にインターネットが急速に発達した。95年からはマーケットが広がり、家庭にも浸透した。そして、ブロードバンドの普及も進んだ現在、インターネットではまた新しいことが始まろうとしている。
村井教授はここで二つの先進的な事例を紹介し、通信の未来を描いた。
ひとつは高精細なHDTVカメラの非圧縮映像をインターネットで双方向中継する実験。贅沢な帯域の使い方だが、圧倒的なリアリティが実現できるという。
もうひとつはバスの天井に無線アンテナをつけ、自動車同士を無線でつなぐ実験。ITS国際会議で実際に行われ、自動車同士がインテリジェンスに情報を共有するなど、有望な効果を確認した。

洗練されたエンジニアリングで日本から世界へ

村井教授はヤマハのルーターの魅力を「洗練されたエンジニアリング」だと言い切る。「この国は人間がいいんです。どんな機器でも使いこなしてしまう。しかもよく考える。不満がフィードバックされるからメーカーはよりいいものが作れるという好循環です」。

しかし、成熟したユーザーの視線はそれだけ厳しい。「ヤマハのルーターが10周年、100万台を迎えることができたのは、ヤマハが日本のインフラストラクチャーを見切った上で、日本のユーザーにとって一番安心して安く使えるという世界を実現してきたからです。そのためには、そうとう気を遣った、洗練されたエンジニアリングが必要です。使う側のロジック、使う側の気持、使う側の財布をすべてわかっていないとできないことですから。逆に言うと、これだけ安定して、先進性もあるルーターが世界のマーケットで知られていないのが驚きです」。

海外ではいまだにヤマハがルーターを作っているというとたいへん驚かれるという。「これまでは、日本というマーケットの特殊性に順応してきたことがヤマハのルーターの強み、という側面はありました。しかし今後は、医療、介護分野など、さらにシリアスなリクワイアメントが世界中で求められるようになります。それらをクリアすることでヤマハの優れたルーターが世界の人々に知られるようになることが私の願いであり、夢ですね」。

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