田中 和郎氏

お客様とともに歩んだヤマハルーター

1995年3月のRT100i発売から始まったヤマハのネットワーク機器事業は、2015年3月、20周年を迎えました。ネットワーク機器事業の黎明期、その中心で活躍していたOBが、当時の思いを本音で語ります。田中和郎氏は、RT100iからRTA50iまでのほとんどのルーター製品のソフトウェア開発とフィールドサポートの担当者として、お客様の声を直接聞いていました。

新しい技術を便利に使いたいという思いから始まった

田中和郎氏

ヤマハに勤務する前はオンラインシステムを開発していました。入社当初は、音楽ホールの設計支援プログラムを開発していました。

あるときISDN-LSIの開発担当者から「ISDN-TAを開発したい」という相談を受けて、ISDNルーターの企画書を作りました。まだインターネットという言葉が一般には知られていない1993年のことでした。

最初は、インターネット接続用ルーターというよりも、いわゆるバケツリレーが簡単に実現できる装置を考えていました。国内インターネットの実質的前身であるJUNET(Japan University NETwork)に繋ぐための設定が難しく、時間がかかるのを何とかしたいという思いがありました。「TCPなら簡単につなげられる」ということで、ISDNで“ルーターもどき”のものを作れば良いのではないかと考えたのです。

そんな時期にWIDEプロジェクトの吉村伸さんを紹介していただきました。メールでコンタクトを取ったところ、丁寧な返信をいただきまして、IIJへ会いに行くことになりました。その時に、「ルーターもどきではなくて、きちんとしたルーターを作りなさい」とアドバイスをいただき、開発方針を軌道修正しました。

当初は開発の自由度も大きく、機能の実装も任されていました。手元にハブがないときにも便利なようにと、10BASE-Tポートの端末モード(NORMAL)とハブモード(REVERSE)を切り替えるためのスイッチを、日本では初めて実装しました。

OEM供給を想定していましたが、開発の終盤で再び吉村さんに報告に行った時、自分達のブランドを大事にしろと、言われました。販路については、IIJにいらしていた住友商事さんを紹介していただきました。

1995年、日本で第2回目のInteropが開催された年ですが、出展機器の相互接続性を検証するための集まりが5月に開催されました。ヤマハも発売直後のRT100iを持って参加したところ、その場でいきなり10台ご注文いただき、大層驚きました。

お客様の要望を聞き、自分たちでできることは全部対応する

ISDNリモートルーター RT200iISDNリモートルーター RT200i

ソフトウェアを開発しながらお客様のサポートを兼務しましたので、発売後はお客様の要望をよく聞くように心がけました。やはり実際に体験しないとどんなものが出てくるのかお客様は分かりませんし、体験して初めてこれをやってほしいという要望も出てきます。とにかく自分たちでできることは全部対応しよう、という方針でやってきました。

その後、開発チームのすぐ隣にユーザーサポート窓口を置きました。窓口担当を開発者がバックアップできるだけでなく、開発者にもお客様の生の状況が伝わるようになり、お客様の立場で開発や技術情報の提供ができるようになりました。

ISDNリモートルーター RT102iISDNリモートルーター RT102i

最初からIT製品は1年しか持たないものと考えて、RT100iを発売した時から次はどうしようかと考えていました。RT200iは多ポートのISDNを束ねるマルチリンクPPP(MP)が特徴でした。RT102iでは後継機として小型化をはかりました。

RT100iは「SOHOルーター」で、ハイエンドな個人かスモールオフィスがターゲットでした。当時想定していたヤマハルーターの典型的なお客様像は、4、5人程度のソフトウェアハウスです。

その後、大手コンビニエンスストアにも採用されて一気に数千台入った時には、こんな大きな会社でも使っていただけるんだと嬉しかったです。店の数が増えればうちのルーターも売れるので、店舗もどんどん増えてくれたらいいなあと思っていましたね。

リリースノートは正直に対応した記録

田中和郎氏

RT100iの発売直後、1995年の3月からホームページを立ち上げて技術情報の提供を開始していました。ルーター製品のユーザーメーリングリストを最初に立ち上げたのもヤマハです。当時どこのメーカーもそんなことはしていませんでしたが、「インターネット製品なのだからインターネットでサポートするのは当然」と考えていました。

ソフトウェアのバージョンアップの内容を記す「リリースノート」も同じ頃に始めましたが、開発メンバーには、あったことは全て包み隠さず書こうと言っていました。
RTA50iの発売直後に、リリースノートに100項目以上のバグ修正内容を書くことになって、「100個もバグがあると正直に書いたら売れるものも売れない」と言われたこともありました。
でも、正直に記録し続けたのは良かったと思っています。何かトラブルが起こった時にも履歴がすべて追えるので説明する際に困ることはありませんでした。

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