JApan Network Operators' Group(日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ:以下JANOG)は、インターネットにおける技術的事項、および、それにまつわるオペレーションに関する事項を議論、検討、紹介することにより日本のインターネット技術者、および、利用者に貢献することを目的としたグループで、年2回ミーティングを行っています。ホストは回り持ちで会場は各回のホストが指定するため毎回異なっており、全国各地で開催されます。
2014年1月に別府国際コンベンションセンター(大分県別府市)で開催されたJANOG33 Meeting会場にWi-Fi環境を整備するためのネットワーク機器として、ヤマハからWLX302とRTX1200を貸し出しました。ヤマハからのネットワーク機器貸出しは、2013年7月に大阪国際交流センター(大阪市)で開催されたJANOG 32に続き、2回目となります。
年2回開催されるJANOG Meetingは、毎回およそ400名から800名もの会員が集まっています。各回のホストが会場を提供するため、開催ごとに会場は異なりますが、集まった会員が活発な議論ができるよう、各回の実行委員会は、実行委員長の下、プログラム委員、企画編成委員、会場運営委員の3つに分かれて準備を進めます。
会議に来る人が快適に過ごせるように、会場レイアウトを含めて全体を設計し、準備と当日の運営を行うのが会場運営委員(以下LA)の役割であり、会場内のWi-Fi環境の整備もその一環となり、2010年頃から取り組んでいます。当初は個人が所有しているルーターやスイッチを持ち寄ってネットワークを構築するところから始めたそうですが、JANOG28 Meeting(2011年7月)からは本格的にWi-Fiネットワーク構築に取り組むようになりました。
ヤマハは、JANOG30 Meeting(2012年7月)、JANOG31 Meeting(2013年1月)に協賛ブースを出してWLX302による展示ブース内ネットワーク状況の見える化を展示していました。これがきっかけで「会場の無線ネットワークに新しいアクセスポイントを使ってみたい」というJANOGからの要望を受け、JANOG32 Meetingでの貸し出しが実現しました。
JANOG32 Meetingでは、WLX302×14台、SWX2200-8PoE×2台、RTX1200×1台を貸出し、ホワイエ、ギャラリー、協賛メーカー控室、大ホール内(複数)などにアクセスポイントを設置しました。当日は、協賛ブースにヤマハのエンジニアが常駐し、LAからの要望に応じてサポートしました。
(JANOG32 Meetingの大ホールへのWLX302設置状況)
事前設定したアクセスポイントの設定が前日のファームウェアのバージョンアップにより全部消えてしまい、当日設定を戻したり、傾斜のあるホール内では上部にあるAPの電波が飛びすぎ、特定のAPに接続が集中するといったトラブルがありました。APの向きを変える、出力を絞る、帯域を狭くするといった対処で「狭い範囲に高密度でAPを配置する」ためのノウハウを得ることができました。
JANOG33 MeetingのLAも、前回に引き続きヤマハのWLX302を使用しました。今回のチャレンジは、メイン会場とサブ会場の2会場にプログラムを分けるため、ネットワークもそれぞれの会場で死角のないように提供することでした。ヤマハからはWLX302を10台とRTX1200を1台貸出しました。WLX302の配置はメイン会場のフィルハーモニアホールに5台、副会場のリハーサル室に2台、スタッフルームに無線LANコントローラーとして1台配置しました。また、RTX1200は接続端末情報収集に使用しました。
(JANOG33 MeetingのフィルハーモニアホールへのWLX302設置状況)
初日は1階と2階に分散配置したアクセスポイントの出力の設定を誤って2階の出力を強くしてしまったため、接続が2階に集中してしまうというトラブルがありましたが、翌日には出力を調整して平準化に成功しました。
また、当日、運用していたSSID「janog33」と同じSSIDを名乗るアクセスポイントが会場内に出現しました。パスワードも同じに設定されていたため混乱が発生しましたが、WLX302の見える化ツールを利用してどのAPの近くに存在するのか探しました。そのほか、DHCPサーバーが有効になったクライアントが無線LANへ接続することにより、正常に接続出来ない事象が発生したが、MACアドレスを特定し、APのMACアドレスフィルタリングで接続を拒否することにより、解決できました。
最終的に1日目に514台、2日めは569台、全日で625台のユニークな端末を接続して無線ネットワークを運用できました。端末接続数の情報収集は、LAの依頼により、RTX1200でデータ収集のためのLuaスクリプトを稼働し、microSDメモリに保存したデータをヤマハで後日分析してLAにフィードバックしました。
JANOGのネットワーク構築は基本的には自給自足でやることが前提なのですが、足りない機材を貸してくださるベンダーさんからはありがたくお借りして、構築させていただくこともあります。JANOG32/33では、なるべくお借りするベンダーにも有利になるような使用・運用した結果をフィードバックするという形で、ギブアンドテイクの形を取りました。また、今回のLAスタッフとしても新しいものを自分で試してみることでモチベーションが上がりました。機材を提供いただく企業の方にとっても、いち早く一般ユーザーによるシビアなテストができるという点でメリットがあるのではないでしょうか。そして新しい機材は実際に使ってみるとトラブルがつきものですが、ヤマハには協賛企業ブースにエンジニアを置いていただき、その場でサポートいただけたのはとても心強かったです。
イベント会場でのネットワーク構築は、狭いエリア内で同時接続数の多いネットワークを、短時間で構築から撤収まで行うという点が特徴です。事前の検討はするものの、当日、アクセスポイントを配置して実際に電波を出して調整するときに、コントローラー機能がAPに搭載されているという現在の構成は、専用ハードウェアが不要であるというメリットはありますが、多くのAPをまとめて全部把握したいという用途では電波を出したくないところで出てしまうという点でちょっと使いづらい気がします。イベント会場では自立した一つ一つのAPの状況を見たいのではなく、全体を一つのものとして管理したいので、オプションでルーターにコントロールを実装するような形があってもいいのかなと思います。
WLX302で一番インパクトが大きかったのは「見える化」なのですが、実際に使ってみると「良くできた素直なアクセスポイント」という印象でした。とはいえ、設置する人の立場になれば、うまくつながらない時に「電波の状況が良くない」という状況をユーザーに見せて納得してもらえるのは大きなメリットだと思います。
トラブル発生時には「何が起きているか」「何が問題なのか」「どうすべきなのか」の3段階があって、WLX302が今提供しているのは2番目の「何が問題なのか」までの情報ですが、一歩進んで「どうすればいいのか」というアドバイス的な工夫があれば、専門家ではない人のスキルアップにもつながるのではないでしょうか。
お話を伺ったJANOG33 Meeting LAチームのメンバー(左から、山口勝司さん、神谷尚秀さん、辰巳智さん)
(2014年9月25日掲載)
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