元SEの教諭がある高校のネットワークを変革した事例に注目が集まっている。
レイヤー3スイッチの導入や6つのVLAN構築、電子黒板の導入などを通して教職員の業務改革と教育のデジタル化を実現した。
2018年に創立30周年を迎えた私立鹿島学園高校。茨城県東南部の鹿嶋市に立地し、運動部の強豪校として名を馳せている。同校の新たな特徴が、ネットワークの刷新などを通してIT先進校への変革に成功したことだ。
ネットワーク刷新をリードしたのが、同校で情報管理部長を務める谷口俊郎教諭。以前はSEだった谷口氏は2013年の着任時、真っ先にセキュアなネットワークの整備が急務だと感じたという。
例えば、教職員の部屋と、生徒が授業でPCを利用する情報室に有線LANが敷設されていたが、無線については専門業者による施工ではなく、ITに多少詳しい教師が設置したもので、個人のスマートフォンを接続する程度でしか利用されていなかった。
そこで2017年に谷口氏が情報管理部の部長に就任するとさっそくネットワークの刷新に取り掛かった。目的は大きく2つ。教職員の業務の効率化と教育のIT化だ。
ネットワークの設計は谷口氏が自ら行い、機器の選定では4社の製品を比較検討。各社のAP3台と50台のタブレット端末を用いてテストしたところ、安定して動作したのがヤマハの機器だった。テスト結果に疑問を抱いた際、ヤマハの代理店のエンジニアが原因調査のために同校を訪れるなどフットワークよくサポートしてくれたことにも好印象を抱いたという。
APが目立ちすぎると生徒たちの目に留まり、余計な心配も必要になるので、デザインがシンプルで壁と一体化していることも気に入った点だ。ヤマハのレイヤー3スイッチ内蔵のネットワーク管理ソフトウェア「LANマップ」を利用することで、GUIベースでネットワークの状況確認や設定変更を行えるメリットも考慮し、すべてのネットワーク機器をヤマハ製で統一することに決めた。
工事は2回に分けて行われ、2017年12月の第1期工事では、全教職員が校務でネットワークを利用する場所のLAN整備とAPの設置を校内全域に行った。教員には1人1台ずつタブレットを支給し、無線LAN環境での利用を促した。第2期工事を開始するまでの期間を教職員が新たなIT機器に慣れるための時間に充てたのだ。
第2期工事は2018年8月に文科省の助成金事業の認可を受けて行い、主に全教室へAPとLANを整備した。さらに、全教室に電子黒板と書画カメラ、ノートPCも1台ずつ導入。教員は電子黒板に自作のスライドを映写して説明を行ったり、書画カメラを使って教科書や資料を映写し、ペンツールで書き込みを入れながら解説することができる。そのため、生徒がより理解しやすい授業を行えるようになった。
2回の工事を経て生まれ変わった鹿島学園高校のネットワーク構成図が「図表1」だ。興味深い点は、レイヤー3スイッチを採用したことである。この規模としてはオーバースペックな設計ともいえるが、谷口氏は「今後、ネットワークの規模が大きくなるとコア・スイッチがボトルネックになる可能性がある。それを避けるために、先を見越して導入した」と説明する。
図表1:鹿島学園高校の情報ネットワークの概略
鹿島学園高校は現在、教職員が業務で利用するシステムに生徒がアクセスするのを防ぐことを主な目的として、6つのVLAN構成でネットワークを運用している(図表2)。例えば、ネットワーク刷新に伴って生徒の基本情報管理や成績管理などを行える校務システムも導入した、専用ネットワークとしてVLAN2を割り当てた。全日制の業務用デバイスのみ利用できるため、セキュリティが向上した。
今後は各生徒が、個人端末から無線LANを利用できる環境も目指しているが、VLAN7を構築するだけで可能だ。スケジューリング機能で授業時間外のみVLAN7をオンにすることで、生徒がクラウドサービスなどをメリハリをつけて自由に使える運用にする。
生徒一人ひとりがノートPCを利用し、学校教育向けクラウドサービスなどを活用して双方向の授業を行う準備も行っている。ソフト面については慌てずしっかり時間をかけて、教員も生徒も満足のいく形で着実にスタートさせる方針だ。
図表2:鹿島学園高校のVLAN構成の概略
ネットワークの刷新と校務システムや電子黒板などの導入によって教職員の業務の効率化と教育のIT化を実現した鹿島学園高校。「他の学校でも真似できるものを構築したつもり。当校と同じような取り組みを行えば、学校の教育環境を大きく変えることができるはずだ」と谷口氏は強調する。
以前の鹿島学園高校のようにIT化がうまく進まず、苦労している学校は少なくないだろう。2年間で先進的なICTインフラを持つ学校に変貌した同校の挑戦には、参考となることが多いはずだ。
(2019年02月25日掲載)
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