大阪市危機管理室は、災害時に備えて音声通話網の安全性強化を図った。
自治体ではまだ例が少ない3種類のWANによる冗長化で、危機管理用の強固な音声通話網を完成させた。
神戸市や淡路島を中心に甚大な被害を及ぼした阪神・淡路大震災。ビルが崩壊し、高速道路が支柱ごと倒れた光景は、にわかには信じがたい現実だった。あのときのことを忘れない─。関西に居住する人ならばなおさらその思いが強いだろう。
大阪市危機管理室は、災害や大規模な事故などが起きたときに重要な役目を果たす組織だ。従来から大阪市防災行政無線システムなどを用いた危機管理のための音声通信網を構築してきたが、同時に通話できるチャネル数が少なく、新通信網の導入には多大な費用がかかるという課題を抱えていた。
転機が訪れたのは2017年4月のこと。「セキュリティ強化を目的に、危機管理のデータ通信網を刷新することになり、そこにVoIP機能を乗せられないかと考えました」。大阪市の松村恵造氏はこう話す。
VoIPによる新しい音声通信網の仕組みは、過去に交通局の情報システム部門に所属したことがある松村氏自身が考えた。WANを拠点ごとに冗長化し、主回線は有線WANの「IP-VPN」と無線WANの「地域BWA」、副回線は無線WANの「LTE」(NTTドコモのIoTプラン・防災用大ゾーン基地局対応)を利用する(図表)。
図表:大阪市の多重化された危機管理用の音声通信網
当時、LTEを無線WANとして利用できるヤマハのVoIPルーター「NVR700W」の存在を知った松村氏は、「求めていたのはこれだ」と直感したという。実際に導入されたルーターは、NTT西日本がフレッツVPNワイドサービスのために供給する「BizBoxルーター『NVR700W』」だ。これを大阪市危機管理室含め、53拠点に設置した。
「副回線として無線WANのLTEを選んだのは、災害時に光ファイバーが切断することを懸念したからです。バックアップでLTEを用意しておけば、光ファイバーが切れても通信を維持できます」と、大阪市危機管理室の奥田雅幸氏は説明する。
複数の通信事業者などから提案を受け、最終的に、VoIPだけでなく、地域BWAの基地局設備を利用して、閉域網を構築できるアイテック阪急阪神が請け負った。
2017年12月に作業を開始し、翌年2月末には運用スタートという短期間のプロジェクトだったが、IP-VPN、地域BWA、LTEで冗長化した音声通信網の構築は予定通りに完了した。大阪市危機管理室からネットワークサービスの提供を一任されたアイテック阪急阪神は、同社のデータセンターに電話帳サーバーを設置し、市本部や各拠点に設置された電話機の電話番号を管理している。これにより、電話機の増減や内線番号の変更などを一元的に管理でき、運用管理の負荷を軽減できる。
採用した電話帳サーバーはヤマハの「YSL-V810」だ。その理由はNVR700Wと密接に連携できるためだ。アイテック阪急阪神の梶邑直人氏は、「YSL-V810は初めてでしたが、直感的に操作できるGUIがあり、とても扱いやすいです」と話す。
また、「主回線と副回線の切り替えや、ある拠点は主回線でつなぎ、別の拠点は副回線でつなぐ場合はどうしたらいいのかなどといった疑問について、ヤマハのネットワーク機器の総代理店であるSCSKが迅速丁寧に答え、サポートしてくれたので助かりました」と振り返るのは吉田真佐浩氏だ。そして瀬戸口聡氏は、「機器の設定から運用管理まですべてを任せてもらい、納期も含めて要件通りのサービスを提供できたことは、当社にとっても大きな収穫になりました」と話す。
大阪市危機管理室の新しい音声通信網の運用は始まったばかりだが、スループットが高いこともあり、明瞭な音質で通話できているという。「まだすべての拠点に通話の環境が整ったわけではありませんが、チャネル数の問題も解決でき、コストも非常に低く抑えられています」と松村氏は満足そうな表情を浮かべる。
大阪市と同じような課題を抱えている自治体は多いだろう。その課題を解決する方法の1つとして、主回線の通信断に備えてLTEを採用し、危機管理用の音声通信網を多重化した大阪市の取り組みは参考になるはずだ。
災害から市民を守る─。そのための大きな役割を担う大阪市危機管理室の挑戦は続く。
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(2018年05月28日掲載)
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