北部九州を地盤とする学習塾大手の株式会社全教研は、ヤマハルーター「RT57i」および「RTV700」を用いたVoIPシステムを導入中である。PBXや電話機など既存資産を活かしたまま、音声のIP化を実現しているのが大きな特長で、これまで年間約1800万円かかっていた通話コストの半減を見込んでいる。さらに、将来的には遠隔学習システムを提供する基盤として活用することも狙っている。
進学指導を主とする学習塾を柱に事業を展開する株式会社全教研は、昭和37年の創業以来、「主体的に学び努力する姿勢を養い、育てる」の理念のもと、社会に役立つ人材の育成を目指す教育に取り組んできた。現在、生徒数は約11500人。教室は北部九州を中心に51カ所に及んでいる。
株式会社全教研の常務取締役 中垣量文氏は「私どもは、教育はコミュニティの中でこそ成立するものであり、学習指導に加え、生徒一人一人に対して親身になって応対したり、励ましたりしなければ、成果は出ないと考えています。そのためには、教室で教師と生徒が直接顔を合わせる時間をできるだけ増やすのが理想なのですが、時間などの制約から限界があります。これに対して、生徒が自宅で学習する際にもさまざまなフォローができる仕組み造りに有効なのがネットワークです。当社は、ネットワークを活用した教育サービスの開発に長年注力してきました」と語る。
常務取締役
中垣 量文 氏
このため、全教研はネットワーク・インフラの整備には早い段階から熱心に取り組んできた。1991年には、基幹システムのデータをデジタル専用線でやり取りする、上場企業にふさわしいトータル・ネットワーク・システムを構築。これを皮切りに、新しい技術が登場するたびに、その実用性を検討しながら積極的に取り入れてきた。たとえば、ISDNを利用し始めた頃から、TV会議システムの実験などを行ってきた。
同社が、IP電話の導入を開始したのが2003年の秋口である。
当初は、ADSLを使うのでは安定性に不安があるといった理由からIP電話導入を見送っていた。しかし、FTTHが利用できるようになったことやIP電話機器市場の成熟もあり、導入に踏み切ったのである。
「まず、年間約1800万円かかっている通話料のコストダウンが見込めます。IP電話の導入により、拠点間の通話料を無料にし、外線への発信コストも抑えられれば、通話料をトータルで半減できるでしょう」と中垣氏は狙いを説明する。「また、遠隔授業などの新しい学習システムの基盤としても期待しています」と語る。
IP電話サービスは、フュージョン・コミュニケーションズの「FUSION IP-Phone」を利用。そして、VoIPゲートウェイとして、ヤマハルーター「RT57i」および「RTV700」を採用した。
システム構築を担当しているシステムインテグレータの株式会社正興電機製作所 情報システム事業部 社会情報システム部 情報・エンジニアリンググループ グループ長の石井宏昌 氏は、「まずフュージョン・コミュニケーションズのIP電話サービスへの接続についてヤマハは研究熱心であり、拠点間通話および外線通話の実績がある点も重要なポイントでした。しかも、非常に手ごろな価格でした」とヤマハルーターを採用した理由を語る。
「規模の小さな教室には大抵ISDNのPBXが導入されているのですが、ヤマハは昔からISDNに強く、そのISDN技術はとても信頼できるものでした。検討段階で実際にヤマハルーターを取り寄せ、こちらで何度もテストを繰り返した結果、『これなら大丈夫』という確証が得られたので、採用を決めました」(石井氏)。
RTV700は電話回線にISDNを利用している教室に導入し、RT57iはアナログ電話回線利用、かつ、チャンネルが必要となりカスケード機能による増設を行う教室に導入している。接続しているPBXは複数企業の製品が混在している状況である。
中垣氏は「本システムの特徴は、既存のPBXや電話機を活用している点です。いくら通話コストを削減できても、PBXや電話機をすべて買い換えていては採算が取れません。機器をほとんど買い換えることなく、現行システムにヤマハルーターを組み入れただけで、音声をIP化できたのが大きなメリットです」と語る。「また、段階的な導入が可能なところも重要でした。各教室のスケジュールや、導入を担当していただくエンジニアの方の確保といった要因から、全拠点への一括導入は現実的ではありません。個別の状況にあわせて、徐々に音声のIP化を進められるのが助かります」と強調した。
情報システム事業部
社会情報システム部
情報・エンジニアリンググループ
グループ長 石井 宏昌 氏
現在、全51カ所のうち8カ所が音声のIP化を終えており、2004年9月までには全教室への導入を終える予定だ。導入作業に携わる石井氏は「ヤマハルーターは設定がしやすいので、導入がスムーズに進み助かります。ブラウザを使った簡単な操作で設定でき、メニューはすべて日本語なのでわかりやすく、動作も安定しているので、順調に導入できています」と言う。
現在は全教室への導入最中だが、すでに導入効果が現れ始めている。例えば、コストについては、当初見込んでいた通話料半減だけでなく、新たなコスト削減効果も得られている。「使用している電話回線を見直したところ、IP電話の導入によって、解約しても問題ない電話回線が40本弱生まれることがわかりました。これらを解約すれば、月額約20万円のコスト削減効果が望めます。また、今まで慣れてきた操作方法とほぼ同じ手順で電話が使えるのも、見逃せない利点です」と中垣氏は話す。
全教研では、このインフラを利用した遠隔授業や、今後の少子化をにらんだ大学生および社会人向けの教育サービス拡充などに向けて、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、教材やソフトなどの研究・開発に取り組んでいるところだ。
中垣氏は「将来、新たに提供する教育サービスには、ネットワークを存分に活用していきたいと考えています。特に社会人向けサービスでは、時間を有効に使っていただくため、いつでもどこでもサービスを受けられるようにするには、ネットワークが欠かせません。これら新しい教育サービスを始める際は、ぜひ正興電機製作所とヤマハにお手伝いいただければと思っております」と期待を語った。
真摯な教育理念と積極的なネットワーク活用で発展を続ける全教研。そのIP電話システムは、ヤマハルーターがこれからも支えていくのである。
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小・中学生を主体に、高校生も含めた進学指導を中心とした学習塾。最近では大学生、社会人向けの教育コースも設け、自ら学ぶ能力を高め社会に役立つ人材を育てることに主眼をおく。
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