中小規模ネットワークにおける通信障害のリスクが高まっている。モバイル端末の増加などでLAN自体が複雑化し、トラブルの原因究明が難しくなっているのだ。とはいえ、専任のIT管理者を置くのはコストがかかる。こうした課題を解決する二つの製品が2013年6月に開催されたInterop Tokyo 2013「Best of Show Award」で特別賞を受賞した。ヤマハの無線LANアクセスポイント「WLX302」と、スマートL2スイッチ「SWX2200-8PoE」である。開発へのこだわりを開発チームに聞いた。
ヤマハは、これまで拠点間をつなぐルーター製品などを開発し、市場で高い評価を獲得している。だが、昨今増大するネットワーク系の問題の原因となっているのは、拠点間ではなく、“拠点内”の複雑化したLANだ。
「お客様が思われている以上にLANが大規模化しているケースが多く見られます。手動管理では限界があり、当社の技術力で解決したいと考えていました」と商品企画を担当する平野尚志氏は言う。
とりわけ、社員が利用するモバイル端末の増加により、無線LAN環境が複雑化している。そこでヤマハでは、RTXやNVRシリーズなど自社製品のルーターとも連携できる無線LANアクセスポイント「WLX302」を提供。無線LANの運用管理を容易にし、通信環境の変化や過去に発生した現象を可視化した。その特長は「WLX302」に標準搭載されている無線LAN見える化ツールに表れている。電波を使用する無線LANでは通信環境が常に変化するため、詳細な情報をリアルタイムに表示すると、情報が多過ぎて重要なシグナルを見落とす恐れがある。逆に、状況把握に必要な最低限の情報に絞って表示することで、「何が起きているか」「何が問題か」が分かりやすくなる。
「WLX302」開発リーダーの石原健二氏は、「見える化ツールでは、無線LANの状況を分かりやすく伝えるためにグラフィカルなGUIを採用しました。緑は安全、黄色は注意、赤は警告など、専門知識がなくても色で状況が分かるようにしました」と話す。「WLX302」を使う利用者の運用面での負担を少しでも減らすため、何をどう表示すればいいか考えながら設計したと石原氏は言う。
ヤマハ株式会社
楽器・音響営業本部
音響営業統括部
SN営業部 営業推進課
平野 尚志 氏
ヤマハ株式会社
SN開発統括部
第1開発部
ネットワーク機器グループ
技師補
石原 健二 氏
デュアルバンド対応の「WLX302」は2.4GHz帯、5GHz帯の二つの周波数帯域に対応する。それぞれの帯域で無線LAN機器を50台ずつ、合計100台同時接続できる。このスペックは理論値ではなく、実際に耐久試験を行って得られたものだ。すでに数百人が参加するカンファレンスでも実際に利用されるなど、実力は証明されている。
「一般的には、この価格帯の製品ではここまで徹底したテストはやらないと思います。なぜ、それをやったのか。目指しているのは、裏方としてしっかり役割を果たしつつ、存在していることをユーザーに意識させないことです。設置してすぐに使え、そして最適な状態を自律的に作り出すことを目指しています」と、開発当初のコンセプトづくりから携わってきた開発マネジャーの牧田仁氏は述べる。
製品外観も、従来の無線LANアクセスポイントの常識を一度白紙にして練り上げた。例えば、アンテナ部の突起。指向性などからアンテナが本体から飛び出す形状が主流だが、求める性能を生かしつつ本体に内蔵し、すっきりとした外観にした。色も白。病院や学校でも目立たない色とした。
「見えない部分にもこだわりました。長期間安定して稼働するために信頼性を徹底的に高めました。熱対策として放熱板の理想形を追求しています。部品の耐久性も高めました。ここでも厳しいテストをクリアしています」と、牧田氏と同じく開発マネジャーを務めた玉井和司氏は自信を込める。今後はMDM(モバイルデバイス管理)機能の搭載を目指す予定だと言う。
耐久性とデザイン性を兼ね備えた「WLX302」。そのコンセプトとデザインは、無線LANアクセスポイントの新しいスタンダードになる可能性がある。
ヤマハ株式会社
SN開発統括部
第1開発部
コミュニケーション機器グループ
マネジャー
牧田 仁 氏
ヤマハ株式会社
SN開発統括部
第1開発部
ネットワーク機器グループ
開発担当技師
玉井 和司 氏
IP対応電話機やLED蛍光灯などの導入が進む中、これらの製品への給電に対応したPoE(Power over Ethernet)スイッチ製品が注目されている。
「ただし、現在のPoEスイッチは、ハイエンドの高価格帯製品とローエンドの海外製品に大きく2分割されているのが実情です。その間を満たす中小規模のネットワークを運用する企業ニーズに対応したいと設計開発を進めました」と前出の平野氏は指摘する。
「SWX2200-8PoE」には、給電ポートが八つある。15.4Wを給電できるポートが四つ、30Wを給電できるポートが四つあり、ポートごとに給電能力の上限を設定可能だ。15.4W、30Wと利用用途に柔軟に対応できる選択肢を用意している点に特色がある。
信頼性を高める工夫も随所に搭載されている。「特に、キーコンポーネントである電源ユニットについては我々の求める仕様が市場にはなく、ヤマハで一から設計開発しました」と、ソフトウエア開発を担当した牧野秀彦氏は説明する。ここではスピーカーに給電するオーディオのアンプ電源開発などで培ったノウハウが生かされた。内部に熱だまりができないように前面吸気、後面排気という空気の流れを考慮した筺体デザインを採用している。
ハードウエア開発担当の若林剛氏は、「給電の状況によって内部の消費電力量に幅があります。しかし、どのような給電をしても最適な速度でファンが回転するように設計しています」と語る。前述した「WLX302」と同様、耐熱性についても繰り返しテストを重ねた。
また、「SWX2200-8PoE」においても、一目で分かるGUIを実現。トラブルの見える化や、給電状況の見える化により、専任担当者でなくても運用できるようにしている。ループが発生しても、遠隔から確認・対応できるのも特長だ。
ヤマハ株式会社
SN開発統括部
第1開発部
ネットワーク機器グループ
技師補
牧野 秀彦 氏
ヤマハ株式会社
SN開発統括部
第1開発部
ネットワーク機器グループ
主任
若林 剛 氏
「ヤマハでは、製品が発売されたらゴールではありません。お客様にとっては、そこから3?5年のライフサイクルのスタートです。お客様のビジネスとともに成長していくシステムでなければなりません」と牧田氏は述べる。そのために、同社ではファームウエアの更新などをこまめに無償提供している。
さらに、製品の進化を支えているのが、ネットワーク機器を取り扱うヤマハのエンジニアやユーザー企業の技術者などを結ぶコミュニティーである。過去には、このコミュニティーの情報を基に、ルーター背面のスイッチの位置を分かりやすく配置する仕組みが考案されたこともある。さらに、市場の声を製品に反映するフィードバックの場として、「ヤマハネットワークエンジニア会」を新たに立ち上げ、コミュニティーを広げていく計画だ。
なお、この「ヤマハネットワークエンジニア会」の参加者は、実機を所有していなくても、インターネットを通して実機検証可能な「遠隔検証システム(β)」などのサービスが利用できる特典がある。こうした取り組みが、コミュニティーの裾野を広げ、活性化に一役買っている。
ヤマハが自社開発にこだわるのは、ユーザーの真のニーズに応えるため。ヤマハが誇る「技術力」が、中堅中小企業のビジネス成長の舞台裏を支えている。
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