なれる!SE ヤマハ?の歩きかた 第4回

なれる!SE ヤマハ?の歩きかた 第4回

ルーターの製造現場を見学する一行。そこでなぜヤマハが国内に工場を置くのか、驚愕の理由を知る。

H田

さていよいよルーターの製造現場にご案内します。こちらはヤマハミュージックエレクトロニクス社の袋井工場です。RTX3500、RTX5000といったハイエンド機器の基板を作っているんですよ

橋本課長

ハイエンド? じゃあ小さなルーターはまた別のところで製造しているんですか

H田

ええ、基本はもうあらかた国外生産になっていますね。RTX810、RTX1210などの普及機は中国の蘇州工場(ヤマハエレクトロニクス蘇州)で作っているんですよ。あとNVR500のようなVoIPルーターも蘇州生産ですね

橋本課長

なぜハイエンド機器は日本で作っているんでしょう? 他と同じように海外で作ってしまえばと思うんですが。集約効果も上がりますよね?

H田

確かにコストの面だけ考えれば仰る通りですが、まぁ理由についてはおいおい説明していきますよ。とりあえず実際の製造ラインを見ていきましょうか

橋本課長

はい。……あの? 桜坂さん?

桜坂工兵

え? あ、はい。どうしました?

橋本課長

いえ、何かひどく気もそぞろな様子なので。先ほどレストランを出てからずっとですが、大丈夫ですか?

桜坂工兵

も、もちろん大丈夫ですよ。なんの心配もありません。さて、じゃあグランドピアノの製造工程を見に行きますか!

橋本課長

いえ、ここはルーターの基板工場ですが……

桜坂工兵

え? あ、そ、そうですよね。ちょっと言い間違えました。なんか言葉の響きが似ていますよね!

橋本課長

……(似ていない)

桜坂工兵

(あああもう、室見さんが気になって説明が頭に入ってこない。なんかさっきからすごい目つきしてるし。鼻息も荒くなってるし。工場の機械、壊したりしないよな。何かあったら僕が身を挺して防がないと)

桜坂工兵

(とはいえ説明も聞かないと失礼だしなぁ。……はぁ)


H田

こちらはAI(Auto Insertion=自動挿入)と呼ばれる工程です。必要な部品を機械が自動的に選択して基板に取り付けていくんですよ。だいたい秒間6~7個のスピードで実装されています

桜坂工兵

(室見をちらちらうかがいながら)部品? なんかリール状のテープが読みこまれているようにしか見えませんけど

橋本課長

桜坂さん、これはテーピングといって部品のパッケージなんですよ。見て下さい。細かいピンつきのパーツが等間隔に封入されているでしょう?

桜坂工兵

ああ、本当だ。リールからテープを送ってどんどん部品を取り出していっているんですね。なるほど、うまくできてる……って、橋本課長、よくご存じですね?

橋本課長

一応、業平は電子部品の商社ですから。この手の物は見たことがあるんですよ。ピンのついていない部品はまた別の機械で取り付けるんですよね?

H田

はい、半田を使って糊付けするSMT(表面実装)は次の工程ですね。どちらに使う部品もだいたい規格化されていますから、ほとんど機械で取り付けられますよ。一部、規格外の部品については後工程のMI(Manual Insertion)、すなわち手作業で取り付けます。人間と機械の力をうまく組み合わせて基板を作っていっているんですよ

桜坂工兵

そのあたりはピアノ製造の時と同じですね。これはヤマハさん独自の仕組みなんですか?

H田

いえ、大まかな流れは基板工場であればどこも同じです。ここの工場が独特なのは生産性アップのために各種ITを取り入れてるところですね

H田

たとえばこれ、生産スケジューラと呼ばれる画面なんですが、各ラインの状況が帯グラフのような形で分かるようになっています。横軸が時間で縦軸が生産ラインですね。で、進捗が遅れているとこんな感じでアラートが出るわけです

橋本課長

管理者が状況を把握しやすいわけですね

H田

はい、やばそうだと思ったらすぐヘルプに飛んでいけるわけです。で、この画面は各作業者のタブレットと連携しています

桜坂工兵

タブレット?

H田

市販のiPadですよ。作業者は自分の端末に完了した作業・時間を入力していくんです。するとこの画面にデータが反映されます。ほら

桜坂工兵

おー。なるほど、これならいちいちメンバーにホウレンソウを求める必要もないですね

H田

ええ、定時連絡やレポート作成の手間が大幅に省けます。昔はこれを紙でやっていましたから、大幅に稼働が削減できたわけです

橋本課長

まさにIT化の恩恵ですね

H田

無駄な稼働や待機時間を徹底的になくす。我々はこれをF1のピットクルーになぞらえています。問題発生。全員かかれ! 完了! ってな感じで(笑)

H田

そしてもう少し方法論として確立させたら、我々はこのやり方を海外の工場にも展開していくつもりです。いわばグローバルの生産効率化のテストケースなわけですね。で、この手法が展開し終えたらまた次の試みも始める予定です

桜坂工兵

あ、じゃあひょっとしてこの工場だけ国内にある意味って

H田

はい。先進的な取り組みを続けていくためです。通信機器だけでなくデジタル楽器、PA機器といった音響系についても同じです。いわば袋井はヤマハ・サウンドネットワーク事業のマザー工場なんですよ

桜坂工兵

おおお! なるほど、そういうことですか。世界に広がる技術の、ここが出発点なんですね! ほら室見さんも、いつまでもぶーたれてないでちゃんと聞きましょうよ。すごいですよ。ここはヤマハさんのマザー牧場なんです!

橋本課長

(マザー工場ですが……)

室見立華

……

桜坂工兵

あれ? ちょっと室見さん?

室見立華

!? な、なによ桜坂! 突然目の前に現れて。びっくりするじゃない!

桜坂工兵

いや、ずっとそばにいましたけど。どうしたんですか、ぼうっとして

室見立華

ぼうっとなんかしてないわ。言われなくてもちゃんと聞いてたわよ

室見立華

(……っとに、ありえないわ。こんなの、信じられない)

桜坂工兵

はい?

室見立華

な、なんでもないわ。ほら、前向きなさい。ヤマハの人、待ってるわよ

桜坂工兵

あ、すみません

H田

次、行っても大丈夫ですかね?

桜坂工兵

はい、お願いします

桜坂工兵

(なんか室見さん、変なテンションだなぁ。ピリピリしてるけど怒ってるわけじゃなさそうだし、暴れたり暴言吐いたりもしないし……んんん?)


H田

お疲れ様でした。というわけで出来上がったルーターのカタログがこちらですね。実際にはここで作られた基板が磐田の豊岡工場に運ばれて組み立てられるわけですが、まぁひとまず完成品のイメージということで

桜坂工兵

(パラパラめくりながら)RTXシリーズですかぁ。昼ご飯の時、RT100iはかなり革新的な製品だって分かったんですけど、これも結構有名な製品だったりするんですか?

(ゲシッ!)

桜坂工兵

!? け、蹴られた? あれ、誰が? なんで?

室見立華

……

H田

まぁ何をもって有名と言うかですけど、ヤマハのRTXシリーズは日本のSOHO市場でシェアナンバー1ですよ。だいたい累計で三百万台以上出荷されてますね

桜坂工兵

え!? そ、そんなにたくさん? 本当ですか?

H田

ある意味、多拠点WANのデファクトなんじゃないでしょうか。中小企業の拠点ではインターネット接続ルーターにも使われていますし

桜坂工兵

そうだったんですか……(知らなかった)。でもなぜ? 何か機能的に競合の機械より隔絶していたりするんですか?

H田

ふふふ、そのあたりは次の見学場所でお話ししましょうか。そろそろ桜坂さんにも里帰りしていただきたい頃合いですし

桜坂工兵

え? あ、じゃあ

H田

はい、お待たせしました。次の目的地は浜松、ヤマハ本社です

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