各種調査によると、今年(2020年)上半期に発生した新型コロナウイルスの感染拡大、そして政府による緊急事態宣言をきっかけに、国内オフィスワーカーのおよそ3割がテレワーク/在宅勤務を経験したという。そして在宅勤務を経験した人の多くが、今後も「在宅勤務を継続したい」という意向を持つことも明らかになっている。若い世代を中心に、就職先/転職先の会社選びにおいて、こうした柔軟な働き方ができるかどうかを判断基準にする傾向も強まっているようだ。
政府も7月、オフィスワーカーの7割を在宅勤務にするという目標を示し、企業に協力を呼びかけている。短期的には感染症対策のための動きだが、中長期的にはコロナ以後の“ニューノーマル時代”を見据え、これまでの「働き方改革」政策ではあまり進まなかったテレワーク/在宅勤務の本格的な浸透と定着につなげたい考えだ。
このように、一時的、緊急的な対応としてではなく、新しい働き方の選択肢として「恒久的、本格的な導入」へと進むテレワーク/在宅勤務。だが同時に、今回の在宅勤務経験からは多くの課題も見えてきている。本稿ではとくに「企業IT/ネットワーク管理」の観点から、現在のテレワーク/在宅勤務環境にどんな課題があり、今後どう対応していくべきなのかを考えてみたい。
公益財団法人 日本生産性本部が今年5月/7月の2回、全国の雇用者(就業者から自営業者、家族従業者等を除いた1100人)に実施したアンケート調査によると、5月時点で回答者の29.0%が「自宅での勤務(在宅勤務)」を実施、また緊急事態宣言解除後の7月でも18.4%が在宅勤務を実施していた。さらに、7月時点では在宅勤務実施者の70.3%が、在宅勤務に「満足している/どちらかと言えば満足している」と答えている。そのほかの企業や組織が行った調査でも、おおむね同様の結果が出ている。
日本生産性本部の調査では、在宅勤務を実施した人に「テレワーク(在宅勤務)の課題」も尋ねている。在宅勤務にある程度慣れてきた7月時点の調査結果を見ると、「部屋、机、椅子、照明など物理的環境の整備」に次いで、「Wi-Fiなど、通信環境の整備」という回答が多い。在宅勤務スタート当初の5月時点では「職場にある資料やデータのネット上での共有化」という課題が2番目に多かったが、7月には自宅ネットワークの課題がそれを上回っている。
在宅勤務経験者に尋ねた「テレワークの課題」。「自宅ネットワーク環境の整備」は上位の回答だ(出典:公益財団法人 日本生産性本部 「第2回 働く人の意識に関する調査」)
つまり、在宅勤務が長期化/本格化するにつれて多くの人が、業務をとどこおりなく遂行するうえでは「自宅のネットワーク環境(インターネット接続環境)」が重要な要素であることに気づいてきたわけだ。
もっともこれは、在宅勤務を経験すればすぐに実感できることだ。たとえば、取引先との商談や社内ミーティングはWeb会議ツールで、リアルタイムな社内のやり取りはチャットツールで、ドキュメントの共有はクラウドストレージなどで行われるようになった。業務アプリケーションも、オンプレミス(自社データセンター)やSaaS(クラウド)にあるものをインターネットやVPN経由で利用する。さらにリモートデスクトップやVDI(仮想デスクトップ環境)を導入している会社もある。現在の在宅勤務は、「自宅が勤務先」というよりも「インターネットが勤務先」と捉えるほうが正確だろう。
そのため、従業員の自宅ネットワーク環境にも安定性と快適さが強く求められる。「接続が途切れる」「通信速度が安定しない」では仕事にならず、ストレスがたまるばかりだからだ。
さらに今後、在宅勤務が新しい働き方の選択肢のひとつとなり、他方で業務のデジタル化が進めば、こうした「自宅ネットワークの課題」をどう解消していくのか、在宅勤務を支える安定したネットワーク環境をどう確保していくのかが、より重要なポイントになっていくと考えられる。
ここで難しいのは、従業員の自宅ネットワークは「企業ITの管理管轄外」である点だ。在宅勤務手当の支給などで金銭的なサポートを行う企業は少しずつ出てきているが、IT管理者による技術面のサポートや管理はまた別の話である。
オフィス勤務の環境下であれば、ネットワークの技術サポートは比較的容易である。IT管理者自身が構築したネットワーク環境なので機器構成や設定内容が把握できており、何かトラブルが発生しても原因を見つけやすい。何よりも、社内ユーザーから「つながらない」と連絡が来れば、現場に駆けつけて状況を把握し、対処することができる。
在宅勤務の環境下ではそういうわけにはいかない。従業員の自宅ネットワーク環境は、使用するネットワーク(通信キャリアやISP)も構成する機器も、その設定もばらばらだ。そして「つながらない」と連絡を受けても、IT管理者が従業員の自宅に駆けつけるわけにはいかないし、リモートから通信状態を確認したり、機器の設定を変更したりすることもできない。
だからと言って、従業員個人にすべての管理責任を押しつけても問題は解決しない。技術的なノウハウを持たない従業員は、トラブル解決に何時間(あるいは何日間)も費やすことになる。その間、本来の業務がとどこおってしまえば、会社にとっては大きな損失だろう。同時にネットワークセキュリティの面でも、管理を“すべて従業員まかせ”にするのはリスクが高く、最低限のガバナンスも利かないことになる。
もうひとつ、これからはIT管理者自身もまた、業務のテレワーク/在宅勤務化を進めなければならないという点も忘れてはいけない。これは「働き方改革」の観点からも、コロナ禍のような非常事態に備えるBCP(事業継続計画)対策の観点からも重要である。したがって、IT管理者がどこにいても、オフィスおよび従業員宅のIT/ネットワーク環境をリモートで監視/管理できる環境づくりが求められる。
こうした課題を解決するために、ヤマハではリモートからのネットワーク管理ソリューションを提案している。具体的には「Yamaha Network Organizer(YNO)」というクラウドサービスを使った、業務ネットワークのリモート統合管理である。
YNOは、多数の拠点に設置されたヤマハ製のネットワーク機器(ルーター、無線LANアクセスポイント)から設定情報や稼働状態を自動収集し、クラウド上のWeb管理画面(YNOマネージャー)で一元的な監視/管理を可能にするサービスだ。IT管理者はどこにいても、業務ネットワークに問題が起きていないかを監視したり、機器の設定変更やファームウェアアップデートなどの作業を行ったりすることができる。
「Yamaha Network Organizer(YNO)」を利用したリモートからのネットワーク管理
これまでYNOは主に、本社/支社オフィス、店舗や工場といった多拠点のネットワークを統合管理する目的で導入されてきた。同じように、従業員の自宅ネットワークをYNO対応機器で構成すれば、今回のテーマである「従業員の自宅ネットワーク」管理でも便利に活用できる。
たとえば、従業員宅に設置された機器が正常に稼働しているか、正常にインターネット接続できているかといったことをリモートで一括監視できる。異常発生時には自動で管理者へメール通知する「アラート機能」もあるので、管理者はすぐさま異常発生を把握し、トラブルシューティング作業に取りかかることができる。
YNOのダッシュボードからトラブルを把握し、機器の設定内容を調べられる(アラート一覧画面、機器詳細情報画面)
トラブルシューティング作業においては、ネットワーク機器の管理画面をリモートからGUIで操作できる「GUI Forwarder機能」が役に立つ。YNO管理画面からワンクリックで、ふだん使い慣れたGUI画面が開くのだ。GUIならばトラブルの内容を一目で把握できるので、トラブルシューティングも短時間で済む。操作ミス、設定ミスの防止にもつながるだろう。
GUI Forwarder機能を使えば、リモートに設置された機器のGUI管理画面を直接操作できる
また、従業員宅へのネットワーク機器の配布/設置作業は、YNOの「ゼロコンフィグ機能」によって大幅に簡素化できる。これは、機器をインターネット回線と電源に接続するだけで、YNOクラウドから配信された設定情報が自動的に適用される機能だ。従業員に複雑な初期設定作業をお願いする必要がなく、管理者自身も機器配布前のキッティング作業を簡略化できる。大量のネットワーク機器に対する設定漏れ、設定ミスの心配もなくなる。
そのほかにも、機器のグルーピングと一括設定変更の機能(グループCONFIG機能)、ファームウェアの一括アップデート機能など、YNOが備える各種機能は、従業員の自宅ネットワークを安全、確実、効率的に統合管理していくうえで役に立つものが多い。
ちなみに、プライベートでも利用される自宅ネットワークをリモート管理するとなると、従業員や家族がどんなサイトにアクセスしているのかなど、プライバシーにかかわる情報まで見えて/見られてしまうのではないかと心配になるかもしれない。だが、YNOやGUI Fowarderでリモート監視できるのは、あくまでもネットワークの接続性に関する情報だけである。あらかじめこの点を明確にしておけば、従業員からの同意も得られやすいだろう。
YNOに対応したヤマハのネットワーク機器は、規模に応じて複数の機種がラインアップされている。従業員の自宅ネットワークに適した機種としては、ギガアクセスVoIPルーターの「NVR510」が挙げられるだろう。また無線LANアクセスポイントでは、今年7月に発売された802.11ac対応の「WLX212」が、YNOによるリモート管理に対応済みだ。
YNOに対応したギガアクセスVoIPルーター「NVR510」、無線LANアクセスポイント「WLX212」本体
前述したとおり、従業員の自宅ネットワークと言えども“業務ネットワーク”であり、ネットワーク機器にはパフォーマンスの高さ(接続スピード)だけでなく、安定性や堅牢性も強く求められる。そうした意味で、もともとビジネス環境向けに設計/開発されているヤマハ製ネットワーク機器の信頼性は高い。
たとえばNVR510は、LAN間スループットが最大2Gbps、サポートするNATセッション数が最大6万5534など、小規模オフィスまでをカバーできる強力なスペックを備えている。とくに近年では、NATセッションを大量に消費する業務SaaS(Webアプリケーション)が増えているが、それらを利用する場合でも十分な余裕をもって対応することができる。
またWLX212は、2.4GHz帯よりも電波干渉源の少ない5GHz帯をサポートしている。5GHz帯の活用により、アクセスポイントが乱立しがちなマンションなどの厳しい電波環境においても、安定した無線LAN通信が期待できる。
ちなみに、WLX212は「無線LAN見える化ツール」を内蔵しており、周辺の電波環境(無線LANチャンネルの利用状況など)をGUIで可視化できる。これはリモートのIT管理者からでも使えるので、「無線LAN接続が不安定、切れる」といった場合のトラブルシューティングに最適だ。
「無線LAN見える化ツール」の画面。リモートから電波環境を調査し、アクセスポイントを干渉のないチャンネルへ設定変更することもできる
在宅勤務ではもうひとつ、オンプレミス(自社データセンター)にある業務アプリケーションやファイルサーバーへのアクセスにリモートアクセスVPNも必要になる。ヤマハでは、Windows用のVPN(L2TP/IPsec)クライアントソフトウェア「YMS-VPN8シリーズ」を提供している。簡単な操作で設定/接続/切断ができるのが特徴だ。
このYMS-VPN8では、今年5月にリリースしたバージョンから「経路制御機能」を追加している。これはインターネットブレイクアウトを実現する機能で、社内にある業務アプリケーションやファイルサーバー以外へのアクセストラフィックを、VPNではなく直接インターネットに流すことができる。これにより、業務SaaSの利用が増えるなかで、VPN装置や自社ネットワークへのトラフィック負荷を軽減することができる。
VPNクライアントソフト「YMS-VPN8」では、インターネットブレイクアウトにも対応した
ちなみに、ヤマハといえば“音のメーカー”としても知られる。テレワーク/在宅勤務ではWeb会議が長時間に及ぶことが多いが、「会話が聞こえにくい/伝わらない」では業務効率が上がらず、ストレスもたまる。そこでヤマハでは、音に関する独自のノウハウと高度な音声処理技術を詰め込んだスピーカーフォン「YVC-200」などの音製品も提供している。長時間のイヤフォン装着により、外耳炎の発症など耳の健康を害することもあるので、社員の健康維持や会議ストレス軽減のためにも導入を検討したい製品だ。
クリアで快適な会話を自動的に実現するポータブルスピーカーフォン「YVC-200」。どこにでも持ち運べるサイズで、USBやBluetoothを使ってPCやタブレット、スマートフォンと簡単に接続できる
冒頭でも触れたように、日本国内ではこれからテレワーク/在宅勤務が本格的/恒常的な導入段階に入ってくる。そのため、従来の企業IT/ネットワーク環境では考慮されてこなかった「従業員の自宅ネットワーク」環境への支援と対応を考えるべきタイミングが来ている。
もちろんこれは、ほとんどの企業にとって過去に経験のない取り組みである。考えるべきポイントも多岐にわたるだろう。そこで、ヤマハでは新たに 「テレワーク相談窓口」を開設し、テレワーク/在宅勤務の導入や環境整備を考える企業からの幅広い質問や相談に答えている。まずはメールや電話で気軽に相談してみてはいかがだろうか。
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