1995年3月の「RT100i」発売から始まったヤマハのネットワーク機器事業は、2015年3月、20周年を迎えました。ネットワーク機器事業の黎明期、その中心で活躍していたOBが、当時の思いを本音で語ります。山田裕一氏は、RT140シリーズ、RTA50iなどのネットボランチ・シリーズなど、初期のヤマハルーター製品のハードウェア設計と評価にたずさわりました。
私が入社後に最初に手がけたのはISDN LSIです。1980年代後半に完成させましたが、当時通信業界で実績のないヤマハのLSIが市場の認知を得るためには、きちんと動く装置を見せる必要がありました。そこでISDN LSIを搭載した「評価用ISDN通信ボード」も開発しました。この製品が注目されるきっかけとなったのが、NTTと共同開発した「ISDN同時演奏システム」です。これをいくつかの通信業界の展示会に出展したところ、好評を博したのです。音楽はヤマハの最も得意とする分野ですので、通信業界の展示会で音楽を流すというアイデアで注目を浴びることができました。
ISDNリモートルーター RTA50i
通信機器事業が軌道に乗りかけてきたある時、期待していた主力製品の入札案件を失注してしまったことがありました。そこで、そのチームがISDNルーターの開発に合流したのですが、その時に世に出たのがRTA50iです。このRTA50iはコンパクトなピアノブラックのキューブ型が好評で、大ヒット商品になりました。デザイン部門は社内でコンシューマー商品を多く手がけていましたので、それまでのオフィス向けのネットワーク機器とは一味違ったものができたのでしょう。
RTA50iは失敗が成功に結び付いた例ですが、失敗から教訓を得たこともあります。
複数回線を束ねて128kbit/sのバルク通信ができる独自規格のICを作って、RT100iなどに搭載しました。ところが、ルーター業界ではソフトウェアで処理するマルチリンクPPP(MP)が普及して、この機能は全く使ってもらえませんでした。立ち上がりつつあったこの業界での、オープンな規格と相互接続の重要性を学びました。
この後、世の中は徐々にブロードバンド時代にシフトしていき、2002年にイーサアクセスVPNルーター「RTX1000」を発売しました。これはお客様の要望を取り入れて、ブロードバンド回線とISDN/高速デジタル専用線の二種類の回線を1台に収容したモデルでした。ヤマハの製品はお客様からの要望で進化すると言われますが、これは外資系ベンダーには簡単に真似のできないヤマハの強みと考えています。国内のお客様の要望に誠実に耳を傾けて実現する姿勢は、当時も今も変わらないつもりです。
製品の信頼性向上のために雷対策と熱対策にも力を入れて、国内で落雷の多い地域でも「他はダメでもヤマハだけは壊れない」と評価いただけるようになりました。
イーサアクセスVPNルーター RTX1000
ヤマハ通信機器のお客様のイメージは、支店・営業所・店舗などの中~小規模拠点。コストパフォーマンスがよく、壊れず、質実剛健なものを求めていらっしゃいます。一旦信頼いただけければ長いお付き合いにもなります。
そうした大切なお客様の期待に応えるためには、ひたすら真面目にやることです。価格は抑え、壊れず長持ち、最高の性能を提供して、お客様に「買って損はない」と思っていただくしかありません。
ヤマハのネットワーク機器特長に、「格好良さ」も挙げられるでしょう。
RTA50iの筐体は、実は金型から抜くために少しだけ台形なのですが、これをいかに真四角に見せるか、広い面を真平らに歪みなく作るか、といったことろにデザインへのこだわりが凝縮されています。RTXシリーズのブルーも、ヤマハのトレードカラー「ヤマハバイオレット」をベースにデザイン部門が調合しました。
ハード、ソフトにかかわらずデザインのキーワードは「シンプル」。飾り過ぎず極限まで研ぎ澄ますことを意識しています。
私は、常にヤマハでネットワーク製品を作ることの意味を考えながら、真面目な“ものづくり”をしてきました。ヤマハが作るピアノという製品は、1台ずつ調律という手間をかけなくては完成しません。プロの演奏会といった妥協の許されない場面で使われる製品を作ってきた会社に受け継がれるDNAがあります。それを通信機器事業でも継承して、確実に動作する製品を作りつづけてきました。
「その時々で一番良いものを提供する」という姿勢は、今でもしっかりと受け継がれています。お客様には、これからもヤマハの製品を安心して使っていただきたい思います。
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