ヤマハのネットワーク機器は海外にも展開しており、中でも成長が著しいのが中国です。
中国市場参入時から関わり、2011年から2015年3月まで現地のヤマハ ミュージックアンドエレクトロニクスチャイナ(Yamaha Music and Electronics China/以下YMEC)に駐在していた小島務(現:楽器・音響営業本部 SN営業部)、小島の後任として2014年12月から現在まで中国に駐在する小野田充宏、そして中国市場参入当初からゴールドパートナーとして営業活動をしていただいているYamaha Motor Solutions Co.,Ltd.Xiamen(以下YMSLX)の申君乔氏に話を伺いました。
なお、インタビューは、ヤマハの東京支社プレゼンテーションルームと上海のYMSLXの間を繋ぎ、マイクスピーカーシステムYVC-1000を使ったWeb会議で行いました。
申君乔氏
小島:ヤマハルーターの海外進出の話が出たのが2008年頃で、リサーチしたところ中国のネットワーク機器の需要は拡大傾向にあったため、市場参入が決まりました。
中国ではヤマハは「楽器」「音楽の会社」と思われていて、ICTやネットワーク機器については全く知られていません。そのような土壌の中で、申さんを始めとする現地のYMSLXの皆さんには、中国のお客様のことや、どんな機能が求められているかなどを教えていただき、日本で既に発売されている製品を少しずつカスタマイズしながら持ち込み、色々と勉強させていただきました。
申:私はYMSLXに入社して22年目、上海に来て10年目になります。小島さんとは、音声コミュニケーション機器のテストの手伝いをしたことがきっかけでお付き合いが始まりました。そして「ヤマハ発動機とヤマハを区別せず、ネットワーク機器も扱わせて欲しい」とお願いして、YMSLXが中国のゴールドパートナーとしてネットワーク機器も扱うようになりました。今は、小野田さんと一緒に仕事をしています。
小野田:私は2014年12月から上海に赴任しています。それまでは、今中国で主力製品として注力しているSGX808の開発責任者でしたが、完成したタイミングで「自分で作ったものを自分で売ってきなさい」と任命され上海に来ています。
スマートゲートウェイ SGX808
小島:中国のネットワーク機器市場は2010年当時に比べるとおよそ2倍になっています。当初はまだ「VPNってなんだろう」というようなお客様が大部分を占めているような市場でしたから、中国の方の意見も聞いて、SRT100を中国向けにカスタマイズしたRTX800という製品を持ち込みました。そこからスタートして、ルーターは最新機種のRTX5000も含め4機種、スイッチ2機種を含めた6機種を扱っています。
小野田が開発したSGX808は、日本国内では展開していない、「スマートゲートウェイ」という新しい取り組みです。中国のお客様のニーズは日本以上に多様で、全てに応えることは難しいのと、ネットワークで繋ぐだけではなく、アプリケーションニーズが多い市場だということが分かりました。その需要にお応えできるものを提供したく1年半ほど前から展開しています。
小野田:SGX808の概要を説明しますと、基本的なVPNルーターの機能を持つ箱があり、一部、小型Linuxサーバーの要素を開放して、その上でアプリが動作します。LAMPと呼ばれる環境、つまりLinux、Apache、MySQL、PHPなどが入っていて、自社でアプリ開発もできます。Wi-Fiで接続されている電波強度を取得するAPIやルーターの機能設定APIなど、ルーターならではの機能拡張もされています。
SGX808のサポートサイトでは、動作確認済みのアプリを有償でダウンロードできます。
SGX808に、用途に応じてアプリをダウンロードしていただくことで、「勤怠管理システム」や、「微信(中国のSNS)のフォロワーにだけ店内のWi-Fiサービスを提供する」といった、ネットワークにまつわる色々なサービスを提供する「箱」として動作するのです。
左より申君乔氏、小野田充宏
申:ヤマハ発動機の情報システム部だった弊社がヤマハのネットワーク機器を扱わせていただきたいとお願いした理由は、まず、同じヤマハとして、仕事をより楽しく大きくしたいと思ったのです。次に、ヤマハのネットワーク製品は品質が良いと認識しています。中国国内のヤマハ発動機の拠点でも、大きな拠点には既に別の海外メーカーのネットワーク製品が入っていますが、その先の小さな拠点、更にはヤマハグループ外にも挑戦して、良い製品を売りたいと考えたためです。
SGX808ではアプリが動きますので、これをプラットフォームとして弊社の販売ノウハウなどを活かして開発したアプリと組み合わせることで、一般店舗などのインターネットインフラ整備がまだ届いていないお客様に、一体化したシステムを提供したいと思っています。
ヤマハ製品の良いところは、頑丈で壊れにくいことです。壊れにくいので、お客様から見ると、保守・メンテナンスの手間がかかりません。でも値段がちょっと高いですね(笑)モノが良いのは分かるのですが、もう少しコストパフォーマンスを改善して欲しいです。
あと、スピード感が少し足りないです。中国は新興国ですから、何でもスピードが要求されます。速ければ良いというものではありませんが、時間がかかりすぎると、市場もお客様も気持ちが変わってしまいます。市場へのレスポンスを改善していただければ、我々はより自信を持って提案できます。
小野田:今年(2016年)4月に、新製品のRTX820が発売予定ですから、価格について少し考えていきたいと思っています。レスポンスも私でできるところは改善していきます。
小島務
申:中国市場での売上はまだ伸ばせると思います。お客様に評価いただけるように、まずヤマハ発動機の中でモデルケースというか、売り方を確立して、グループ外にも展開していきたいと考えています。
小野田:市場全体として、小さな小売店などに、今後ルーターやIT機器が普及していくでしょう。そこに対して響く製品を提案したい、その考えから開発したのがSGX808です。
申:ローカル店舗のお客様が多いので、そのお客様をターゲットにしてアプリケーションを開発しています。技術的な知識の無いお客様が多いので、電源を入れてマニュアルを少し見て設定するだけで動くようにしないと、なかなか導入していただくのは難しいです。あと、中国人はまず値段を見ますが、SGX808は筐体がプラスチックで値段の割に軽くて…。
小島:ヤマハは、日本ではミドルルーターをターゲットとして商品開発してきました。一方、中国はニーズが二極化し、リヤカーの隣をポルシェが走っているような国です。どちらのニーズに寄り添うのか考えて、SGX808は、「繋いですぐに使える」ことを求めるお客様に、必ずヒットするモノを作りたいというところから始まったのです。でも、もう少し筐体は重たくしたほうが良いかもしれませんね。
小野田:販売代理店の話を聞いてみると、マージンの問題や品質の問題で不満を持っていたり、故障サポートに人件費を取られている状況も見えてきました。もともと壊れにくいもの、トラブルがあっても遠隔地から診断できるようなものがこれからは売れるのではないかと思っています。その考えに共感いただけるYMSLXを始めとする代理店の仲間を集めて取り組みたいです。
小島:RTX系のルーターの現在のお客様は商社やメーカーなどの日系企業が大半です。「日本ではヤマハルーターを使っていたので中国でも導入したい」と言っていただき、そこからお客様の拠点に広がっています。最近では、中国系の企業にも導入していただけるようになりました。
申:今年はできれば、音声コミュニケーション機器も積極的に売っていきたいです。これは目先だけではなく3年計画に入れて頑張りたいと思います。
小野田:ネットワーク機器と同様、まずヤマハ発動機グループの中で音声コミュニケーション機器を使っていただき、次のステップとして、今ネットワーク機器で取引をいただいている主に日系企業のお客様にお勧めしていただく方向で、YMSLXのメンバーと話を進めています。
申:ヤマハは製品だけではなく、「人」も良いのです。私は浜松や磐田に出張して研修を受けたこともありますが、ヤマハの人は皆ジェントルで良い人です。互いに信頼関係があるので、商品に対する要望や不満なども遠慮無く言えます。これからも、ヤマハの仕事は持続的に行いたいと思います。
小野田:ヤマハ発動機の申さんも含めた現地の方々には、強い一体感を持っていただき、有難く思います。
申:小島さんにも小野田さんにも言っているのですが、商売というより、同じビッグファミリーのメンバーとして一緒に頑張りたいです。
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